JACOT教育講座「子どもたちの主体的な遊びを通した学び」粂原 淳子先生

東京都国公立幼稚園・こども園長会会長、千代田区立ふじみこども園園長の粂原 淳子 先生に、JACOT教育講座「子どもの育ちを支える教育」で、ご講演いただきました『子どもたちの主体的な遊びを通した学び』についてご紹介いたします。

JACOTとの出会い

千代田区立ふじみ子ども園の園長をしております粂原と申します。
前任園の荒川区立南千住第二幼稚園で、初めてコオーディネーショントレーニングと出会いました。

最初は、トレーニングと聞いて体操教室のようなイメージなのかなと思い、戸惑いもありました。しかし、菅野映先生による指導と研修を受けて、幼児教育と共通したところがあることに気付きました。

コオーディネーショントレーニングは「教え込む」ということではなく、「幼児の動きを否定せず、子どもが自分で気付くことを大切に」しながら指導していくというところに、幼児教育との共通点や魅力を感じました。

そこで、平成29年度からは東京都教育委員会の「コオーディネーショントレーニング地域拠点校」の指定を受けて実践いたしました。
コオーディネーショントレーニングに取り組んでいくうちに、「いつの間にか、上り棒や鉄棒ができるようになっていました」「お弁当も早く食べ終えられるようになってきた気がします」等と、教員が子どもたちの変化に気付くことが増え、みんなで一生懸命取り組んだことを覚えています。

その時の研究発表では、コオーディネーショントレーニングの実践を通して「気持ちの切り替えが早くなった」「自転車の練習をしたらすぐに乗れるようになった」など、幼児の変容を実感した保護者アンケートの結果や、日常につなげる指導の在り方などについて報告いたしました。

今回は、菅野映先生よりご依頼があり、幼児教育についてお話をさせて頂きます。

学びの“基礎”を培う幼児教育

「子どもたちの65パーセントは、大学卒業後、今は存在していない職業に就く」「今後10~20年程度で、約47%の仕事が、自動化される可能性が高い」という風に言われています。

そのような社会の変化を受けて、予測できない未来に対応するために、今回、指導要領の改訂の論点として、次のようなことがあげられました。

予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である文部科学省 1.2030年の社会と子供たちの未来

これらを受けて、新学習指導要領等改訂のポイントとして、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」を、「主体的・対話的で深い学び」を通して、全ての学校種において育成することが示されました。

ただし、幼児教育におきましては、人格形成の基礎を築くという観点から、「知識・技能」ではなく、「知識・技能の基礎」。「思考力・判断力・表現力等の基礎」という風に「基礎」という言葉がついています。

これは、小学校の前倒しをして、読み書きや計算を教えるのではなく、幼児の自発的な活動である遊びや生活の中で、感じたり、試したり、考えたりしながら、小学校以降の学びや人格形成の基礎を育むことを基本としているからです。

「知識・技能の基礎」とは遊びや生活の中で豊かな体験を通して、何を感じたり、何に気づいたり、何が分かったり、何ができるようになるのかということです。
例えば、基本的な生活習慣や、生活に必要な技能の獲得。身体感覚の育成、規則性、法則性、関連性などの発見が挙げられます。

「思考力・判断力・表現力等の基礎」は遊びや生活の中で気づいたこと、できるようになったことを使いながら、どのように考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするかということです。

例えば、子どもが、砂をふるいにかける中で、砂時計を作りたいと思う。ペットボトルに砂を入れ、キャップに穴をあけて2本つなげて砂時計を作ってさかさまにして流してみる。ところが、砂が途中でとまってしまい、友達と「穴が小さいのではないか」「砂が重い」「量を減らしてみたら」と思うことを伝え合い、試行錯誤を重ねる。少しずつ流れる量は増えるけれど、最後までは流れないので、近所の時計屋さんで尋ねる。「砂の粒がそろっていること」「砂に角がないこと」が大事と教えてもらい、今度は虫眼鏡で砂の粒をよく見たり、さらに細かい砂にするためにふるいを二重にすることなどを考えたりする…

というように、不思議だな、どうしてかな、こうしてみたらどうかなと考えながら、体験を重ねる中で、思考力・判断力・表現力の基礎が培われていきます。

「学びに向かう力・人間性」は、思いやりや、安定した情緒といった心情的なものをしっかり育てていこうというように示されています。

遊びを通した学びと保育者の専門性

子どもたちは、このような資質・能力を「遊びを通した総合的な学び」の中で育んでいきます。

自発的な活動としての遊びにおいて、幼児は体や心を働かせ、様々な体験を通して心身の調和的発達の基礎を培っていきます。

その意味で、自発的な活動としての遊びは、幼児期特有の学習です。
「幼稚園教育要領」においても、幼稚園における教育は、遊びを通しての指導を中心に行うことが重要であることが明記されています。

幼児教育において遊びが大切にされるのは、人間が生きていくために必要な非認知的能力が育まれていくからです。それが生涯にわたって自分を成長させたり、豊かな人間関係を構築したり、人生のあらゆる営みの支えとなっていいます。

そして、子どもたちが、ただ遊んでいればよいというわけではなく、豊かな体験をしていくための遊びの質が問われ、そこには保育者の専門性が求められます。

保育者は、幼児理解や、発達の時期・季節に応じた環境構成など、子どもの遊びの様子に応じて、保育を構想していきます。これまでの一人一人の歩みに応じ、先の展開を予測しながら、「こんな道具や素材を準備しておいたらどうか」とか、「○○ちゃんにはこんな経験をしてほしいから、こう後押しをしよう」というように、短期・長期にわたり、保育をデザインする力が必要です。

そして何より必要なのは、共感者としての感性ではないでしょうか。

遊びを通した学びは非常に分かりにくいのですが、子どもたちにとって遊びが、主体的に行動することがいかに大事かということを、
ぜひ、多くの方にご理解いただいて、遊びを大切にした幼児教育が、質の高い幼児教育が実践される社会でありたいなという風に思っています。

ご清聴ありがとうございました。

講演していただいた先生
粂原 淳子 先生
千代田区立ふじみこども園園長
東京都国公立幼稚園・こども園長会会長

平成29年度に東京都教育委員会のコオーディネーショントレーニング地域拠点校の指定を受ける。

※JACOTで展開しているコオーディネーショントレーニングは徳島大学の荒木秀夫名誉教授(JACOT理事長)が30年に渡る研究の中から考案したもので、基本的に脳神経系の機能を論理的な基盤とし、行動生理学的に発展させたものです。

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