小学校でのコオーディネーショントレーニング実践【乘田 俊子先生インタビュー】 

今回のインタビュー
青森県藤崎町立藤崎小学校 校長
乘田 俊子 先生
子どものぎこちなさの解決方法を長年探し続け、解決するヒントがあると直感。2016年2月にライセンスを取得。青森県教育委員会の指定校を受けて、実際に自校で取り組んだ際の子どもたちの印象を伺った。

子どもが自ら感じ、動いている

青森県教育委員会の「ブルーウィング・プロジェクト」がきっかけで、2016年に各学年での体育授業と学童でJACOTさんに指導をして頂きました。低学年の体育では子どもたちが講師の先生の後ろに張り付くようにしていましたが「離れなさい」という指示もなく自然に次の動きに入っていきました。そのような指導テクニックや子どもの動かし方が、とてもうまいなと感じました。

また、体育では主に「集合、整列、体操隊形に開いて動く」と、決まったようにやっていますが、その順序を示さなくても最初こそ体操隊形に広がることに時間がかかっていた低学年の子どもたちも、自然に体操隊形に広がっていきました。子どもたちが自分たちで感じて考えている。いちいち「ああしなさい、こうしなさい」と言わなくても自然に子どもたちが動いていっているという良さを改めて感じました。

また、JACOTの先生がぱっと「この人の動きが良かったよ」と見つける子どもが、運動が苦手な子だったりして、そのような子どもたちが、すごく嬉しそうにして次の活動に取り組んでいく。これが素晴らしいと思いました。

競技をしていても、ぎこちない動き

クラスの中には野球、バスケット、サッカーなどの競技スポーツをやっているから、誰よりも動けるのだという得意意識を持っている子どもがいる反面、走ることやマット運動、跳び箱などに対して苦手意識を持っている子どももいます。しかし、コオーディネーショントレーニングを行っている時の子どもの動きを見てみると、普段スポーツをしているとか、普段の体育が苦手とか、そういうことは全く関係ないと分かりました。

普段からスポーツをしている子どもが、くの字・Sの字運動ではぎこちない動きをしていたり、ラディアンでは跳ねるタイミングがずれたりする一方で、他の子どもは割と滑らかに動けているのです。スポーツをやっているから、その動きが出来るというようなトレーニングではないのだなということを実感しました。

スポーツはもちろん、跳び箱やマット運動などの体育の前に、コオーディネーショントレーニングを行っていくことで、色々な動きがスムーズに学習できるようになる。運動学習の入り口になるものを、もっと大事にしていかないといけないと思いました。

こんな6年生の姿は初めて!

6年生の授業で特に印象に残る場面がありました。それは「三すくみ鬼ごっこ」の1コマです。まず、作戦を立てるという時間にチームのメンバー全員が自然と集まって話をしている。それがいい雰囲気だと担任と話していました。やりたくないというような子どもが誰もいなかったのです。そういう風に、子どもたちが集まっているのは、やることに面白さを感じているからでしょうね。「この後に何が起こるかな」という期待感や、「話し合っていくと次はどうなるのかな」という面白さがあって、団結している姿に表れたのかなと思いました。

さらに、ゲームの途中で周りの子どもたちから「2組!2組!」などと声が出てきたときは初めての光景でびっくりしたのです。6年生にもなるとなかなか声を出さないものですので、そんな姿がとても嬉しくコオーディネーショントレーニングの力を感じました。「6年生ってそんなに喜ぶものなの?こんなに楽しくギャロップをするの?」と感じました。やはり動くことが面白く、それがこういった姿に表れたのではないかと思いました。

指導観が変わる

教師は教えるのが仕事なので、何でも教えようとします。もちろん学習内容によっては必要ですが、どちらかというと口を出し過ぎる傾向があると感じています。つい結果を急いでしまうのは、限られた時間でできるようにさせ、どの子にも満足感を与えたいという願いや思いがあるからです。もどかしいのはこの子どもを思う気持ちが時としてマイナスに働いてしまう場合があることです。

これまでも学習において、できない課題をできるまでやらせる教師の多さに疑問を感じることが何度かありました。しかし、できないことに長い時間向き合わせるのではなく、次々と課題を与えながら、たくさんの経験をさせる方が子どもにとってはやりがいもあるし、やる気もでるのではないかと思っています。

コオーディネーションの指導方法がまさにそうでした。荒木秀夫先生が考案されたコオーディネーショントレーニングにはそのような焦りは必要ありません。子どもが自ら考える、できなくてもやろうとしている、動くことを楽しんでいることが大事という、教育本来の子どもに求める姿が引き出されていくのではないかと思います。教師には、そのことに目を向けて欲しい、気付いてほしいと思います。

そして、コオーディネーショントレーニングに取り組む子どもの姿、表情を目の当たりにすることで、まずは教師の指導観が変わり、子どもの質、教師の質、さらには学校の質の向上に繋がると考えています。

誰にでも出来て、上手とか、カッコイイとか、そういうのがない。だから子どもたちにとっては取り組みやすい、そして楽しめる、そんな運動なんだなと思いました。

体育における喜びは

体育の子どもの喜びは「できる」ことのみにあり、できなければできるまでの練習が待っている。未だにそういった指導観を持っている教師がいるのも事実です。しかしコオーディネーショントレーニングを取り入れた授業では、もっと根にある「体を動かすことが楽しい」を感じられる体育にできるのです。

勝敗だけが全て、できないことが恥ずかしい、それが不要なコオーディネーションの時間は、子どもたちにとって何よりも嬉しく楽しい時間なのではないかと思いました。自分の体を自分で動かし、楽しいと実感できたら、そこから自然発生的に活動も学習も生き生きとしてくるのではと思います。

※ブルーウィング・プロジェクト・・・青森県教育委員会が平成27年度から28年度に文部科学省の委託を受け実施した「運動部活動指導の工夫・改善支援事業」の呼称。スポーツ技能の向上のみならず、生徒の生きる力を育成する活動とするための、より良い指導体制の構築を目指して、県内の小学校・中学校・高校を対象に研修と実践を行った。


インタビューした人
JACOT副理事長・事務局長 菅野 映
 2005年のJACOT設立当初からスタッフとして事業の企画・運営に携わる。徳島大学の荒木秀夫先生と出会い、システム科学から人間行動科学までを網羅した理論と実践法に感銘を受け、2009年に徳島大学大学院へ進学。現在は、JACOT認定講師として幼児から高校生への指導と教員研修など全国での普及活動に励む一方で、ライセンス教本の執筆、会報誌「JACOT通信」や東京都「実践教材集」の編集、映像制作を手掛ける。

※JACOTで展開しているコオーディネーショントレーニングは徳島大学の荒木秀夫名誉教授(JACOT理事長)が30年に渡る研究の中から考案したもので、基本的に脳神経系の機能を論理的な基盤とし、行動生理学的に発展させたものです。

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