青森県・小中高でのコオーディネーショントレーニング推進【坂上 佳苗先生インタビュー】

今回のインタビュー
青森県教育庁スポーツ健康課体育・健康グループ 指導主事(インタビュー当時)
坂上 佳苗 先生
2011年にJACOT認定ライセンスを取得。学校教育センター、教育委員会など様々な立場でコオーディネーショントレーニングを推進。どの現場にいても子どもたちと一緒に楽しむ心を忘れない、エネルギッシュな坂上先生にお話を伺いました。
※ご所属・肩書・内容は2018年インタビュー当時のものになります。

JACOTとの出会い

私自身は中学から大学まで新体操競技をやっていました。競技の特性上、「自分の体を常に意識してイメージどおりに動かす」ということを求められてきたこともあり、様々な動きを組み合わせることが自然に身についていたように思います。

その後、高校の教員になって子どもたちを見てみると、自分が考えているのとは違う体の動きになって戸惑っていたり、スムーズに動けていない生徒が多いことに気づき、なぜだろうと疑問をもつようになりました。

手足の動きが揃わずボールをキャッチできなかったり、そのギクシャクした動きと連動しているかのように、人間関係もうまく築けなかったりということが気になっていました。

青森県総合学校教育センターに勤めた際に、運動部活動の研修を担当することになりました。研修に来ていただく先生方には、技術レベルに差はあるかもしれないが「本来みんなに力がある」ということを前提に、その力を引き出すポイントはどこにあるのだろう、部活動とはいえ運動ってそもそも楽しいはず、それを学んでほしいと思って業務を行っていたところ、JACOTの存在を知って電話をさせていただきました。

当時、菅野美津枝先生(JACOT名誉理事)は、「どうして私たちを訪ねたのですか?」「先生は何をしたいのですか?」とおっしゃって。その熱量に押されて、こちらも本気で「こうしたいです!」「こう思っています!」という思いをぶつけました。

「最初のきっかけは…」というところから話し始めて、気づいたら2時間が経っていました。あの2時間の電話がなかったら、8年も続いたこの活動はなかったのかと思うと、ご縁というのですかね、そう思います。美津枝先生との出会いに感謝です。

意欲や期待が目に見えた瞬間

私は、現在は教育委員会にいるため小・中・高等学校の授業を参観する機会があるのですが、子どもたちが可愛くてついつい近くに寄っていっては、「今、何を考えているのかなぁ。」と表情をのぞき込み、「何を話しているんだろう。」と耳をそばだてて様子を窺ってしまいます。

コオーディネーショントレーニングの様子を見ていると、子どもたちから、「え~、あれ?なに?」と自然に出る声、誰かと一緒にやった時の弾んだ声、グループになって気づいたことを話し合う声など、たくさんの声が聞こえます。

ある日、小学校で2種スラローム走のトレーニングをするときに、JACOTの先生が子どもたちを一か所に集めました。その状態で三角コーンを置いて準備を始めたのですが、集まっていた子どもたちが“ニョキニョキ”と山のように顔を出したり立ち上がったりして、「なにやるんだろう。」「きっとあれだよ。」「これなんじゃない?」とあちこちで話しはじめたのです。

次に何をやるんだろうという期待や意欲が声になり、自然に体が動き、表現していたように見えました。そのときの子どもたちのキラキラした眼差しが忘れられません。同時にこの笑顔を無くしてはいけない、この意欲を大切に育てなければと気持ちが引き締まった瞬間でもありました。

“できる”に辿り着くまでの過程が楽しい

ある中学校では、1年生を対象として3回継続してコオーディネーショントレーニングの授業をJACOTの先生にお願いしました。落ち着きがなく、かといって積極性もあまり見られないという課題を抱えている学級でした。取り組みを見た先生方が、「あれ?なんだか、いつもと違う。」「やろうとしている。気が付いたらやっている!」と、とても驚いていました。

別のクラスでは、2回目の授業で生徒たちが「先生、今日は何やるの?くの字、Sの字?それともラディアン?」とたった一度しかやっていない動きの名前を憶えていたのです。そして「次も楽しみ~」と言って帰っていく姿が見られました。

“できる・できない”というよりも、“できる”に辿り着くまでの過程が楽しいのでしょうね。それがコオーディネーショントレーニングの考え方であり、学ぶ力の土台作りなのかなと思います。〇〇ができるようになるために、これをやる、というのではなくて、そこに到達するための基礎をみんなでワイワイ耕している。

さらに、JACOTの先生方の指導は、その過程で子どもたちに嫌な思いをさせない。
それを先生方が一番驚いていたように思います。

「あれ、このクラスこんなに仲良かったかな」と。話し合いなさい、仲良くしなさい、もっと関わりなさいとは一切言わないのに、子どもたちが「ね~ね~」と初めて話す子にも自分から声をかける姿が見られました。たった3時間の活動の中だけでも、だいぶ変わったなという感じがしました。

“喜び”を身体活動を通して伝えていく、それが体育の教員の役割

「できるようになることの喜び」というのがきっと運動だけではなく、色々なものに繋がって発揮されていくのではないでしょうか。今の子どもたちに、その喜びを運動を通して、身体活動を通して伝えてあげることが体育の教員の役目なのではないかと思います。

よく荒木秀夫先生がおっしゃっているように、自分の体に気づく、そして環境の中で相手のことを知り、世界を広げていくというのが身体活動の学びの順番でとても大事なのではないかと思っています。これを指導者が認識し、広めていくこと。

どの子どもたちにも力がある、伸びていく力があるというところを認識し、教員の私たちがまずそこから根本的に指導観や子どもを見る目を変えていく。そして、体を整えることがその子の情動に作用して、物の考え方や生きていくための芯になるような、そういう身体活動を子どもたちに提供できる体育の教員を増やしたいし、また自分も現場ではそのことを胸に子どもたちに向き合っていきたいなと思っています。


インタビューした人
JACOT副理事長・事務局長 菅野 映
 2005年のJACOT設立当初からスタッフとして事業の企画・運営に携わる。徳島大学の荒木秀夫先生と出会い、システム科学から人間行動科学までを網羅した理論と実践法に感銘を受け、2009年に徳島大学大学院へ進学。現在は、JACOT認定講師として幼児から高校生への指導と教員研修など全国での普及活動に励む一方で、ライセンス教本の執筆、会報誌「JACOT通信」や東京都「実践教材集」の編集、映像制作を手掛ける。
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