保育園でのコオーディネーショントレーニング実践【小原 章先生インタビュー】

今回のインタビュー
【東京都】ひいらぎ保育園 園長
小原 章 さん
2010年にJACOT認定ライセンスを取得。板橋区私立保育園園長会 副会長。ご自身の子育て経験を活かし、子どもたちに「家族」のように関わることを大切にしていらしゃる、小原園長先生にお話を伺いました。
※ご所属・肩書・内容は2019年インタビュー当時のものになります。

出会いと園での取り組み

家族でテニス系のスポーツジムに通っている時に、コオーディネーショントレーニングがある事を知りました。2010年にライセンスを取得した後は、本園での指導をJACOTさんに月2回お願いしました。直接、指導法を学びながら、翌週に同じプログラムを私が実践するという取り組みを、2011年から4年ほど継続して行いました。

現在は、そのプログラムを元にアレンジを加えながら、毎週月曜日に4歳児・5歳児向けの指導を継続しています。同じトレーニングメニューでも、年齢や時期によって身体の動かし方や取り組み方が違ってくるで面白いです。

コオーディネーショントレーニングを継続的に取り組むことで、ボールなど物の操作が上手になったり、人と合わせることが自然にできるようになっていると思います。卒園間近に取り組んだダブルダッチでは、練習を全くせずとも、すぐに跳べるようになった子もいます。コオーディネーショントレーニングによる運動の学習能力が高まっているからこそだと効果を感じています。

子どもと関わる視点

保育士は、本格的な運動指導は専門外という意識をどうしても持ってしまいがちですが、コオーディネーショントレーニングはそんなことはない。子どもと楽しくできるんだよということを知って欲しいと思います。私自身はコオーディネーションをやっていて楽しいし、子どもと仲良くなれると感じています。

荒木秀夫先生のコオーディネーション理論の中に、「動きの完成度は求めない」「できる・できないで評価しない」とありますが、今ここでの成果を見るのことが大事なのではない、と私自身も思っています。

「今すぐできなくてもいい。これから、できるようになればいい。」そういった視点や関わり方を、保護者にも保育士にも伝えています。

新しい人との出会い、土地との出会い

他園に指導へ行くことがあるのですが、本園の園児と、同じ年齢の子どもたちとの違いに驚きます。本園の園児が凄いということではなく、「ああ、こんなに動きがぎこちない子もいるのか」という驚きです。そのような時には、目の前の子どもたちの動きや体力の実態に合った指導ができるように工夫しています。

他園での指導を始めた時は、きちんとしなければという意識はありましたが、でも、きちんとやらなくても、危険なことがなければいいかな。と、始めてみました。また、マンネリ化しないということは意識していました。いつもやることもあるけれど、ボールなのか、縄を使うのか、フープを使うのかなどは意識しています。

最近も、JACOTの研修やライセンスセミナーに参加しますが、参加するたびに新たな取り組みや学びがあります。また、セミナーも静岡県や長野県など、他の地域に出掛けたこともあります。そこで出会った方との繋がりで、指導をしに行っている園もあります。まさにヒューマンネットワークですね。

住んでいる地域でないところの研修にあえて参加する良さは、新しい人との出会いや、その土地との出会い。旅感覚で出かけられるところもいいなと思います。半分、研修、半分、旅行という感じで楽しむことができるのもおすすめです。

「家族」のような関わりから学ぶこと

子どもたちは、コオーディネーショントレーニングが大好きです。身体の動かし方などを規制されないのが良いのかなと思います。保育の中では、きちんと話を聞くことを求められる時間もありますが、ただ聞いているという時間をなるべく作らないように「動いて考える」ことを意識しています。

その他に意識していることは、危険なこと以外は叱らないということ。今日の指導で、転んでしまった子に対して、「転び方上手だったね」と声を掛けました。彼は、転んだ時にびっくりして、怒られるかもということで、一瞬こっちを見たのですが、その言葉を聞いて、自信をもって次の活動に移っていきました。そういった出来事からも、人との関わり方を少しずつ学んでいくのだと思います。

本園の園児は、長い時間一緒に生活しているので、友達というよりも、家族に近い感じです。自分が出来ただけで喜ぶのではなく、出来ない子に教えたりということを自然とやっていて、そういう姿を特に大切にしています。朝から夜まで一緒にいるので、そういった関係性を育んでいくのは重要だと思います。

走る喜び、風をきる気持ちよさを

身体を動かして遊ぶことは、子どもたちは、本来、大好き。だから、子どもってとにかく走るんですよね。走れるようになった喜びとか、風を切るのが気持ちいいんだろうなと思います。だって、絶対、走りますよね。だいたい大人は「走っちゃだめ!」と言ってしまうのだけれど。

子どもたちには、走ることが楽しくて、できたことが嬉しくて、人とは比べないということは大切にしています。

自分自身が九州で生まれ育ったのですが、山の斜面を削ったようなところに家があって。近所の子どもの中で、自分が一番年下で、お兄さん、お姉さんに必死について行って遊んでいた記憶があります。そういった経験を経て、運動が好きになって。自信ももてるようになりました。コオーディネーショントレーニングの時間を一緒に楽しむことで、「運動することが楽しくて、自信にもなる」という私自身の人生経験を、子どもたちに伝えていきたいと思っています。

2020年1月発行のJACOT通信の協働推進会員インタビューより一部再編して、掲載しております。


インタビューした人
JACOT副理事長・事務局長 菅野 映
 2005年のJACOT設立当初からスタッフとして事業の企画・運営に携わる。徳島大学の荒木秀夫先生と出会い、システム科学から人間行動科学までを網羅した理論と実践法に感銘を受け、2009年に徳島大学大学院へ進学。現在は、JACOT認定講師として幼児から高校生への指導と教員研修など全国での普及活動に励む一方で、ライセンス教本の執筆、会報誌「JACOT通信」や東京都「実践教材集」の編集、映像制作を手掛ける。

※JACOTで展開しているコオーディネーショントレーニングは徳島大学の荒木秀夫名誉教授(JACOT理事長)が30年に渡る研究の中から考案したもので、基本的に脳神経系の機能を論理的な基盤とし、行動生理学的に発展させたものです。

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