理事長就任の挨拶

この度、久保田洋一先生の後任としての理事長に就任いたしました荒木秀夫です。

NPO法人日本コオーディネーショントレーニング協会(以下、JACOT)が設立されたのは、2005年3月でした。その後、国内外の様々な諸課題に直面するとともに、社会情勢の変化やその動向を踏まえ、2008年9月より、当時の久保田洋一理事長(順天堂大学教授)の就任を機に、私も副理事長に就任し、菅野美津枝事務局長と共に3人で理念や組織運営を見直し、新生JACOTとして再出発することとなりました。そして2011年から私が考案したトレーニング法を段階的に移行し、2013年よりトレーニング理論を全面改訂して、2018年9月より現在の体制に至った次第です。

JACOTの活動においては、「コオーディネーショントレーニング実践と地域連携協働事業」というテーマを活動の柱としています。ここで、コーディネーションではなく、コオーディネーションという「オ」を加えて表記していることについて一言触れたいと思います。

神経生理学や運動学に関する領域においては、国際的にコーディネーション(Coordination)という表記とともに、コオーディネーション(Co-ordination)という記述も散見されます。これは“Co-”という接頭語を強調した表現であって、その内容においては通常のコーディネーション(Coordination)とは異なるものです。私自身は、コミュニケーション(Communication)やコプロダクション(Coproduction)といった用語の接頭語にある“Co-”の意義を強調せんがために、あえて「コオーディネーション」という表記を用いているのがその理由です。

“Co-”が意味するところは、複数の要素が“対等”に関係し合うということです。人間行動を支える要因の大小にかかわりなく、それらが相互に、対等に関係しあうことによって大いなる行動力を発揮するというのが私の基本的な信念です。

私が提唱しているコオーディネーション理論は、諸問題を広い視点から見渡すために、従来の技術、技能、巧緻性、調整力などと呼ばれる「スポーツ的な運動観」から、20世紀後半より台頭しつつある知性、感性問題を網羅した新しい「行動科学的な運動観」に基づく理論を中心に据えたものです。

コオーディネーショントレーニングは、概ね6つの系統に分けられますが、このうち、私が最も腐心したのが基礎的コオーディネーション(Basic Co-ordination)でした。なぜならば、運動が苦手であろうと得意であうと、誰もが指導することができ、成果をあげることができることを目標にしたからです。そして、このトレーニングこそが、JACOTにおける活動の柱となります。

「コオーディネーション理論」は、脳神経科学、運動科学、認知科学といった学際的領域における共通した思想に基づきますが、同時に、現実の「人間の振る舞い」に投げかけて、その解答を追い求める理論でもあります。この投げかけは、あらゆる階層、立場の人々の感性によって、より深く、より広く高めることができるでしょう。

今日の社会においては、解決すべき課題はますます巨大化し、複雑化しつつあります。国や自治体、大学や研究組織による取り組みは重要です。しかし、一方で、一人の市民が日常の生活の中で感じる疑問や課題は、多くの市民が共有するものであり、一人一人の市民は決して孤立してはいません。この声を集約し、ともに解決に向かうならば、策を見いだすことができるのではないでしょうか。

JACOTが、全国で実施している体験会、運動教室、運動指導は、同時に実践研究の場でもあります。実践研究は、現場 (フィールド)そのものを研究対象とすることであり、より直接的に現場に成果をフィードバックさせるという意義があります。こうした研究は、当然、多くの大学、研究機関、行政機関においても進められていますが、いずれの場合も高度な知識と経験を持った専門家による研究といった形で進められています。

しかし、社会的に問題視される事柄は、必ずしも研究組織等から発信されるとは限りません。むしろ、学校、地域、家庭といった中で、「何かがおかしい」という声が上がり、そのことが研究者や公的機関によって解明され、解決に向けて動き出すといった事例も多くみられます。

JACOTに関わる構成メンバーは専門家だけではなく、幅広い「市民」が含まれ、実施している運動教室では、協働事業も含めて、その対象者は毎年延べ数千人に上ります。こうした実践研究においては、研究室内では得られない、または研究者だけによっては得られない成果をもたらすことも可能なはずです。JACOTにおいては、市民一人ひとりが問題意識を抱く限り、誰もがリサーチャーであると捉えています。それぞれの人が持てる知識と経験を出し合い、労力を出し合うならば、現実の問題を最も抱え込む普通の人々が、現場を変えることができる活き活きとした活動を広めることができるでしょう。

多くの皆さまのご意見やご支援を賜れば、この上ない喜びです。私の理事長就任にあたり、挨拶にかえて、組織の活動や基本的理念について紹介させていただきました。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

荒木 秀夫 ARAKI HIDEO,Ph.D. 
JACOT理事長・徳島大学名誉教授

1952年神奈川県に生まれる。学術博士(筑波大学・1982年)。体育学・運動生理学を専門とし、脳科学を基盤にした運動と行動の制御を研究。長年の研究と実践から、脳の刺激感受性の向上を目的とした独自のCo-ordination論を展開する。「くの字運動」「Sの字運動」「ラディアン」などのコオーディネーショントレーニングの考案者。

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